「交通警察の夜」東野圭吾

これも何となく避けていた本。東野さんのHPで、東野さんが自動車関連企業に勤めていて交通事故に関心があったという一文を読んで借りることにした。
何を隠そうわたしはOL時代損害保険会社に務め、事故センターで交通事故の円満解決のために働いていた。
1話目の「天使の耳」を読んで、その当時を思いだした。この話は信号のタイミングを使ったトリックなのだが、わたしが自賠責保険の受付をしているときに信号の色でもめた件があった。
若者の乗った車が赤信号で交差点に入り、乗用者と衝突した事故だった。かなりひどい事故で、車も大破、怪我もひどかったと思う。
若者は赤信号で交差点に入ったということで相手の任意保険会社は対応もらえず、自賠責保険に被害者請求してきたのだった。
赤信号で進入したのであれば、当然自賠責保険もおりないのだが、しかし、若者側の主張は違った。黄色で進入した、とあったのだ。
自賠責保険金請求書を受け取ったとき、若者の書いた事故説明書には黄色で進入と書いてあった。これは調査が入って相当もめるなと思った。
ほとんどの人は知らないと思うのだが、この自賠責保険の調査というものが非常に損害賠償や、ややもすると警察にも影響をおよぼすのである。
信号の色でもめる場合は特に、赤なら全く賠償してもらえず、黄色なら相手が赤信号になるわけだから100%賠償してもらえる。0か100かなのだ。(この話の中にも出てくるが信号には両方赤になる時間があるのだが)
車の損害にもその調査結果によりお金が動くわけだし、警察側も独自に捜査はするけれども保険の(民事の)調査結果と矛盾するわけにはいかないから、その動向を見守っていたりするのである。
もちろんその調査は、わたしがするのではなく自賠責の調査機関というのがあってそこでプロの鑑定士の人たちが調査をする。
かなり長い時間が調査に費やされたと思う。わたしのところに書類が戻ってきたときは分厚い調査報告書がくっついていた。
あとになって知ったのだが、この若者の父親というのが相当な切れ者で、(大手ゼネコンの部長だったらしい)黄色信号で進入したことになるよう事故報告書を書いてきたらしいのだ。
具体的には、時速何十キロで走行中、何十メートル手前で信号が青から黄色に変わり、そのまま交差点に進入した、というようにそんなこと確認しながらほんとに走ってたんかい!ていうようなことを。
しかし残念ながら、この事故がどういう結末を迎えたのかわたしは忘れてしまった。途中経過はこんなに覚えているのにだ。
わたしが関わった何百件のうちの一事故だ。